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2007-04-07(Sat) [長年日記]

_ オカルトの帝国―1970年代の日本を読む(一柳 廣孝)

現在、いわゆる「オカルト的なもの」を見ない日はないと言い切っても決して大袈裟ではないだろう。たとえば、ゲームやコミック、小説にしてもそうだし、スペリチュアルブームや占いブームもその範疇として捉えられることと思う。

本来は「隠された知」だったはずのオカルトが現在のように大衆化することとなった1970年代の動きを様々な側面から考察しているのが本書だ。

本書は、多数の執筆者による評論によって構成されている。正直言って、このような形態の評論集というのは玉石混淆といった感じになることが多いと思うのだが、本書はどの評論もそれなりのレベルを満たしていて、その点だけとっても評価に値するのではないかと思う。

収録された評論の中でも「第2章 小松左京『日本沈没』の意味」(長山靖生)が出色の出来なので、一読をお薦めしたい。

この評論の主題は『日本沈没』に隠された意味を読み解くことであり、切れ味鋭く論じているが、作品が書かれた1970年代の時代背景を探るという面についても優れている。

たとえば、現在は否定的に扱われることが多い、田中角栄の列島改造論とそれに続く1970年代のハコモノ的地域開発については、当時、国民の各階層が支持したことを指摘し、このように述べている。

税金のばら撒きとも利権の再分配ともいわれた政策は、しかし多くの人々にその「利権」を供与した。例えば公立学校の教員給与は、田中内閣の時代に大きく嵩上げされたのである。なにも建設業界だけが潤ったわけではなかったのだ。(p.46)

また、最近の昭和レトロ・ブームにより、いわゆる「あの頃は良かった」的に回顧される1960年前後(昭和30年代)の実態について

海外旅行が高根の花で、深夜のテレビ放送もケータイも電子レンジもない時代であり、都市空間にも蠅や蚊が多く、街にはそれぞれの臭気が漂っていた時期でもあった。地域社会が機能していたということは、隣近所の口がやかましいということでもあり、その煩わしさを厭い、親の時代と同じ生活を繰り返すのはごめんだとうんざりしていた人間が、振り返ってみて世の中が変わってしまったと嘆くのは、滑稽である以上に悲惨な心理といわなければならない(p.47)

と喝破している。

『日本沈没』とともに、最近出版された『日本沈没 第二部』ついても触れられている点も、SFファンには嬉しいところだろう。

一方、妖怪好きにはたまらないのが、水木しげると妖怪ブームについて論じた「第8章 一九七〇年代の『妖怪革命』」(清水潤)だろう。

俗世間から超越したようなイメージを持つ、水木について「戦略概念」という言葉を用いて語り、水木が描き世間に流布した妖怪像が、実は水木の「再現」であり、必ずしも古来より伝わってきた妖怪像と合致するものではない、と述べた本評論はかなり画期的内容と言ってもいいものではないだろうか。

ただ、異論もある。水木のライバルの一人として挙げられている、諸星大二郎の『妖怪ハンター』に登場する「地球の誕生とともに存在した巨大な超生命体」を水木の妖怪像と同列に扱っている点については、個人的には首を傾げざるを得ない。妖怪と言うよりも、クトゥルフ神話に登場するウボ=サスラやアブホースに対するオマージュとして見るべきではないだろうか。

その他、少年誌・学習誌がいかにノストラダムスの終末予言で若年層を煽ったかを論じた『第5章 「ノストラダムス」の子どもたち』(大島丈志)、書店に宗教書が溢れ、書店が新興宗教の宣伝窓口になったかを論じた『第6章 宗教書がベストセラーになるとき』(住家正芳)など、興味深い評論が収められている。ちなみにヒッピーのバイブルになったことで有名な『かもめのジョナサン』は、『宗教書がベストセラーになるとき』によれば訳者である五木寛之が、作中でほのめかされるエリート主義に嫌悪感を表明したという。

『第10章 円盤に乗ったメシア』(吉永進一)では、UFOカルトとして有名なCBAについて述べられている。UFO研究という非常に狭い世界ながら、内部で闘争したり、分裂したり、組織間で争ったりと、今の視点から見ると、かなりおかしい状況ではあるのだが、よく考えれば、狭い世界だからこそ先鋭化する、と言えるのかも知れない。最近のアニメの事情には明るくないので、なんとも言えないが、エヴァンゲリオン・ブームの頃のアスカ派、レイ派の論争のような、他の人間から見れば、まったくどうでもいいのような争いが今でもあるのではないだろうか。そうであるのなら、UFO研究組織の争いも嗤うことはできないなと思ってしまう。

タイトルや表紙画からは、なにやら小難しい印象を受けるが、実際はそんなことはなく、肩の力を抜いて楽しめる内容となっている。あやしげなものが大好きな人には、ぜひ手に取って貰いたい一冊だ。

_ S-Fマガジン 2007年 04月号 [雑誌]

今号は、収録作品の質も高くて読みどころが多かった。

とりあえず、面白かったものの感想。

  • 「蜜柑」(飛浩隆):早く『空の園丁』読みてー。
  • 「迷える巡礼」(ジーン・ウルフ):アルゴ号なんて、ギリシア神話を小学生の頃に読んで以来なので忘れてしまった。復習して、そのうち、もう一度読みたい。
  • 「七パーセントのテンムー」(山本弘):まぁまぁ。
  • 「千歳の坂も」(小川一水):最初、ありきたりの不老不死ものかと思いきや、突き抜けていた。
  • 「ローグ・ファーム」(チャールズ・ストロス):大して面白くなかったが、喋る上に、マリファナをやっている犬はなかなか良い。
  • 「大使の孤独」(林譲治):イラストの長谷川正治が描いた人物画がひど過ぎ。←作品の感想ではないな。
  • 「笑う犬」(椎名誠):今回のトイレ話がツボな人は、ここ何ヶ月かの「本の雑誌」のエッセイを読むと吉。