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ぽっぺん日記@karashi.org


2012-01-22(Sun) [長年日記] この日を編集

_ [書評]『解錠師』──声を失なった凄腕錠前破りの少年の青春と再生を描いた一作。今年のベスト候補!

解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)(スティーヴ・ハミルトン/越前敏弥)

邦題も悪くないが、"The Lock Artist"という原題の方が内容にしっくりくるかもしれない。芸術的といえるほどの腕を持った錠前破りの少年にした物語だ。

去年の末ごろに出版されて以来、各所で話題になっている本だが、本当に面白かった。今年読んだ中で、今のところ、ベスト(ちょっと気が早いか)。

主人公は8歳の時に声を失ったマイク。20代後半の今、マイクは刑務所に収監されている。かつて「奇跡の少年」と呼ばれたマイクがなぜ言葉を喪失し、「解錠師」と呼ばれるプロの金庫破りとなり、刑務所での9年間を過ごさなくてはいけなくなったのか。マイクが語り手となって過去を回顧する──というのが本書のあらすじだ。

物語は、マイクの二つの過去を行きつ戻りつ展開していく。

ひとつはポケベルで呼び出され、犯罪者たちに金庫破りの技術を提供する日々を送る解錠師としての過去。

もうひとつは、8歳の時の事件から伯父に引き取られてからの過去。

ミシガン州ミルフォードで暮らすようになり、学校に通いはじめたマイクだが、言葉を喋れないがゆえに孤独の中で過ごしていた。そんな彼は自分の二つの才能に気付く──それは絵を描くことと、どんな錠も開けられること。

許されざる技術を身に着けたがゆえに、マイクは望まぬままに解錠師の世界へと入り込んでいくことになる。

主人公が喋れないという制約を逆手に取って、その情感を豊かに描く筆致。解錠の妙技を指先の感覚まで伝える描写。見事だ。

二つの過去が近付くにしたがってスピードとスリリングさが増していき、8歳のマイクを襲った悲惨な事件と、手記そのものの意味が浮かび上がってくる。

ノワール小説であるとともに、青春小説であり、ひとりの少年の再生の物語である。強くオススメしたい。


2012-01-15(Sun) [長年日記] この日を編集

_ [書評]『「盗まれた世界の名画」美術館』──盗まれた美術品たちとそれらにまつわるエピソードを紹介する一冊。ピカソの作品だけで500点以上が盗まれている!

「盗まれた世界の名画」美術館(サイモン・フープト/内藤 憲吾)

フィクションの世界では美術品は泥棒の獲物として大人気だ。たとえば、ルパン三世のエピソードで美術品が絡むものを挙げれば、かなりの数になるのではないだろうか。

映画やアニメ、マンガでは、盗まれた美術品は泥棒たちの私的な美術館に飾られたり、そこに隠されたさらなる財宝の鍵になったりする訳だが、現実の世界では違う。ほとんどの泥棒たちは美術品を売るために盗むのだ。

地下経済で売買されるものの中でも、盗まれた美術品は麻薬、武器に次いで第3位の規模になるという。その額、年間15億から60億ドル。これまでで10万点以上の絵画や彫刻が盗まれ、闇のマーケットに消えたと考えられている。

ちなみにピカソの作品だけで500点以上が盗まれているそうだ。

本書はそんな盗まれた美術品たちとそれらにまつわるエピソードを紹介する一冊。

オークションの発達が美術品の高額化をまねき、ひいては美術品盗難を頻発させる要因となった指摘からはじまり、戦時下に国家によって行なわれた美術品略奪、盗まれた美術品の歴史、行方不明の美術品を探す者たち、そして盗まれ闇に消えた美術品のガイドという構成になっている。

ヒトラーが占領地から美術品を略奪したというエピソードは有名だが、それがナチスの美術館に飾るためだったというのは、ほとんどの泥棒たちが売ることを目的にしていたことと比較すると面白い。まぁ、泥棒であることに違いはないが。

盗まれながらも幸運にも戻ってきた美術品も紹介されているが、盗んだ者たちが美術品の扱い方を知らず、傷ついたり、酷い場合には永遠に失われてしまったというケースも多く心が傷む。

テーマがテーマだけに仕方のないことではあるのだが、全体的に盗難美術市場の闇に光を当てるような深みがなかったのは残念。

また、原文のせいなのか、訳文のせいかのか、意味が分からない文章も散見された。

知らない世界が少し見えたという意味で興味深かったが、ノンフィクションというより、変わった美術作品集的に読む方がいいだろう。


2012-01-14(Sat) [長年日記] この日を編集

_ [書評][SF]『リヴァイアサン クジラと蒸気機関 』──巨大飛行獣が大空を征き、多脚陸上戦艦が地上を疾駆する異形の第一次世界大戦へようこそ

リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)(スコット・ウエスターフェルド/Pablo Uchida Keith Thompson/小林美幸)

正直、銀背復活といってもピンとこないかったりするのだが(なにしろ生まれる前のことだし)、本書のような傑作が復活第一弾の狼煙を上げたというのは、とても幸先がいい。

センス・オブ・ワンダーあり、血湧き肉踊る冒険あり、ボーイ・ミーツ・ガールあり(しかも少女は男装!)と何拍子も揃った逸品である。

時は1914年。オーストラリア大公の息子アレックはある夜、突然、臣下によって多脚戦車ウォーカーに乗せられ、住み慣れた城から連れ出される。臣下はアレックに告げる。大公夫妻が暗殺され、アレックの命が狙われていると。

同じ頃、英国では空へ憧れる少女デリンは性別を偽り、海軍航空隊へ志願していた。デリンはひょんなことから英国が誇る巨大水素呼吸獣リヴァイアサンに乗り込むことになる。

風雲急を告げる欧州情勢を舞台に、二人の運命は──というのが冒頭のあらすじ。

第一次世界大戦をモチーフにしている訳だが、本書の素晴しい点は複雑なヨーロッパの情勢をダーウィンによって生み出された生物工学を主体にする〈ダーウィニズム〉と機械工学を主体とする〈クランカー〉という二つのイデオロギーの対立に置き換えていること。

奇抜な歴史改変を行なっているのだが、それでいて地に足が着いた設定になっているのも見事だ。

設定の白眉はタイトルにもなっている巨大飛行獣リヴァイアサンだろう。鯨の遺伝子を改造して生み出されたリヴァイアサンはそれだけでなく、攻撃に使用される矢弾こうもりや駆逐鷹、照明代わりのツチボタル、水素の原料となる蜜を集める蜜蜂、水素漏れを見つける水素探知獣、艦の各部署へ伝言を伝える伝言トカゲといった他の人造獣が組み合わさって構築された巨大な生態系なのである。

そんな魅力的な世界を舞台に、少年、少女がナウシカやラピュタといった宮崎アニメばりの冒険活劇を繰り広げるというのだから、面白くない訳がない!

本書は三部作の開幕篇。今年中に出版が予定されている第二部、第三部が楽しみだ。

巨大飛行獣が大空を征き、多脚陸上戦艦が地上を疾駆する異形の第一次世界大戦へようこそ。


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