追記

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2013-08-30(Fri) [長年日記] この日を編集

_ 書評『日本が「世界で戦う」ために必要な話し方』

レビュープラス経由でいただきました。

著者は国内金融機関を経て、欧州系投資銀行に転職したという経歴の持ち主。その後、グローバル企業に管理職として入社し、グローバル企業15年、アメリカ在住5年の経歴を持っているそうです。

海外の企業に入社した当初は、日本流のコミュニケーション手法が通用せず、ずいぶん苦労したそうですが、外国人上司のやり方を徹底的にマネし、個性的な同僚たちに揉まれながら徐々に自分なりの生き残るためのコミュニケーション手法を確立していったとのこと。

本書ではこうして著者が身につけ体系化した「世界標準」のコミュニケーション術が紹介されています。

本書を読むと、グローバル企業になるということが「英語が公用語」といったレベルのものではなく、もっと根本的なレベルから考え方を変えないといけないということが分かります。

現在の勤め先は純然たる日本企業ですが、なるほどと頷ける記述が多く、勉強になりました。エッセイ的な語り口なので読みやすかったのも良かったです。

第1章では、下記の世界標準のコミュニケーションのための7つのルールが紹介されています。

1. 多様性:「お互い違うのが当たり前」がスタート地点

あらゆる背景を持った社員がいるグローバル企業は「多様性」のある組織であり、自分の常識と他人の常識が違うのは当たり前なのです。

なによりも先に「お互いが違うのが当たり前」ということを考え方を身につける必要があると著者は述べています。

2. リスペクト:相手の価値観を尊重することから始める

世界において「違い」は「間違い」ではないのです。違いとは、尊重すべき際や個性だと言えるでしょう。

違いを認め尊重するやり方がグローバル的な考え方だそうです。「出る杭は打たれる」なんてことが言われる日本企業では喫緊な問題でしょう。

3. リアクション:会話で「間」があくのは放送事故だと思え

欧米では会話はテニスのようなもので、お互いにテンポよく言葉を交わし合うのがルールです。

だから、相手から「会話のボール」を渡されたら、すぐ返すために、理解される文章を瞬間的に作るための「瞬間作文力」が必要というのが著者の主張ですが、なるほどと思いつつも、「欧米 == グローバル」なのか、「『会話のボールをすぐ返せない』という『違い』を認めることはないのか」とちょっと疑問に思ったりもしました。

4. 理由:「なぜ」好きか、「なぜ」嫌いかをはっきりさせる

会話を弾ませる秘密として、「自分の意見には必ず理由を付ける」

なぜそう思うのか、という理由の部分にその人らしさ(価値観)が一番出るからとのこと。日本人の「好き嫌いは言ってもその理由まで説明することがない」という習慣が、物事の因果関係をあいまいにし、論理力のなさに拍車をかけているというのが著者の主張です。考えたこともない視点で新鮮でした。

5. 主張:言いたいことは必ず口に出せ

グローバル企業では、自分の主張ははっきりと言葉に出し、会議の席でも発言することが求められます。

日本企業の会議では「出ているだけで発言なし」なんていう出席者(私とか!)がままいる訳ですが、グローバル企業では参加態度が悪いと評価されるそうです。

また、グローバル企業では、その場で出なかった意見、質問はなかったものとされるとのこと。

参加者には強い意識で参加することが求められている訳ですが、反面、本書の別の箇所では、自分にとって参加する意味がないと思われる会議には参加することを断ることもできるという指摘されています。基本的に全員参加が求められる日本企業の会議よりもよほど効率的な気がします。

6. 二者択一:返事には「イエス」か「ノー」しかない

グローバル企業の会議では基本的に、参加者が取ることができる立場は賛成のイエス、反対のノーのしかないのです。

日本企業における「いいかもしれないですね」「考えておきます」といった言い方は通用しないとのこと。

さらに、単純な「イエス」「ノー」は現実的ではなく、「営業第3部がスポンサーAの了解を取りつけること、および、協賛金◯◯円を集めること」のように付帯条件をきちんと挙げた上で、条件つきでイエス、ノーをはっきりいう人が高く評価されるされるそうです。

また、一度決めたイエス・ノーは絶対との注意点も書かれています。日本人のように最初にイエスと言っておいて、あとで結論をころっと変えることは信頼を失うそうです。海外との商取引で日本が他国に抜かれるなんていう話をよく聞きますが、ここの問題かもしれません。肝に銘じておきたいところです。

7. 自立:世界標準のコミュニケーションが生まれる背景

欧米人がイエス・ノーをはっきりさせる背景には、小さい頃から、「自分の態度をはっきり決めなさい」と教育されていることがあります。

自分なりの意見をしっかりと持ち、自分で自分の立場をしっかりと決めることができるようになることが「自立している」と考えられているそうです。だからこそ、イエス・ノーを鮮明に、自分の意見を持っていることが職業人として最低限のマナーと考えられているそうです。「欧米人」と限定しているところはひっかかりを覚えますが、深く頷ける主張でした。

その他、効率的な会議の進め方、エレベータピッチの作り方など、日本企業に勤めていても役に立つ内容が多く、読んでよかったなと思わされた一冊でした。

Tags: 書評

2013-06-23(Sun) [長年日記] この日を編集

_ Gene Mapper -full build-(藤井 太洋)

Gene Mapper -full build- (ハヤカワ文庫JA)(藤井 太洋)

電子書籍として個人出版されて話題となった作品を、全面改稿の上、書籍として改めて出版された完全版(分量が電子書籍版から1.8倍になったとのこと)。

電子書籍版はスルーしてしまったんだけど*1、いい機会なので読んでみたら、非常に面白くて一気読み。
電子書籍版は未読なのでどれだけレベルアップされているか分からないけど、これに近い内容だとすれば、編集者なしの個人でここまで高いレベルっていうのは本当にすごいと唸ってしまう。カバーイラストも著者自身で描いたみたいだし。

時は2037年。カンボジアに新しく開設された新世代農場で栽培される稲の遺伝子デザインを請け負ったフリーランスの遺伝子デザイナ(ジーン・マッパー)林田に、エージェントの黒川から連絡が入る。農場で稲の異変が起きているというのだ。ハッカー・キタムラの協力を得た林田は稲の謎を探るため、黒川とともに東南アジアへ飛ぶ──というのがストーリーの出だし。

いきなり人類の存亡を賭けたみたいな大掛かりのものではなく、「遺伝子改良された稲の変異」という、近い将来ありそうな(あっては困るけれど)、地に足に着いたものが発端になっているのがいい。遺伝子改良というとパウロ・バチカルビが想起されるのはもちろんなんだけれど、個人的には東南アジアで稲ということで、TRPGのBlue Planetを思い起こしたりした。

たださんも書いているように、主人公がごく普通のプロフェッショナルという点も地に足が着いた印象を強めている。自分自身を「スタイルシートの編集しかできない」なんて言ってしまうあたり、ヘボヘボプログラマの俺には共感度バツグンですよ! まぁ、実際には、林田は大企業に仕事をオファーされるくらいの腕があるので、全然、俺と違う訳ですが!

リズムを損ねないくらいのさらっとした感じで、オブジェクト指向time_tXMLなんていうIT用語がぽんぽん出てきて、普段からそういう単語を見慣れている層に訴求する演出も心憎い。

事件の真相は「こんなことやったら後で問題なるだろう」と思ってしまったりしたのだが、ラストの熱さはそれを補って余りある。仕事と関係なくコードを書く人には感動もひとしおのはず。

拡張現実を利用したコミュニケーションや遺伝子ビジネスなど、「未来はこうなるかもしれないなぁ」と感じさせる一冊だ。

Tags: SF 書評

*1 ただでさえ積ん読が多くて、さらに電子書籍まで増やす訳にもいかず……と思っていたんだが、最近はこっちも増えつつあってトホホ。

_ コリーニ事件(フェルディナント・フォン・シーラッハ)

コリーニ事件(フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄 進一)

犯罪をテーマにした2冊の短編集『犯罪』『罪悪』のいずれも傑作だった現役刑事弁護士、フェルディナント・フォン・シーラッハによる初の長編小説。*1

長編というよりは中編程度の長さなので、さらっと読めてしまうが、短編同様、深い余韻を残す傑作だ。余計なものを省いた硬質な文体がいい。

67歳の移民の労働者コリーニが85歳のドイツ人資産家ハンス・マイヤーを惨殺するシーンから本書は始まる。新米弁護士ライネンがコリーニが国選弁護人を引き受けることになったものの、被害者がライネンの友人の祖父だったことが知る。弁護士としての立場と私情に間に挟まれライネンは悩むが──。

シーラッハだけあって、法廷での行き詰まるやりとりが読ませる。コリーニは犯行を認めているものの、動機は語ろうとしない。一見、接点のない2人の間になにがあったのかというのが本書のテーマ。

ネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、本書が実際にドイツの政治を動かしたとのこと。日本についても考えてしまった。

Tags: 書評

*1 そういえば、『罪悪』の書評書いてなかった。

_ 標高8000メートルを生き抜く 登山の哲学(竹内 洋岳)

標高8000メートルを生き抜く 登山の哲学 (NHK出版新書 407)(竹内 洋岳)

地球上にある8000mを超える山の数は14ある。その全ての登頂に成功した者を「14サミッター」と呼ぶ。昨年、最後に残ったダウラギリ登頂に成功し、日本人初の14サミッターとなった著者による半生記。

実は竹内洋岳の名を初めて知ったのは、昨年NHKスペシャル「ヒマラヤ8000m峰 全山登頂に挑む」が最初だったりする。番組内で、いわゆる世間一般の「山男」のイメージとは正反対な、静かな口調で語る姿が印象に残っていて「いったいどういう人なんだろう」と思っていたのだが、本を出版したと知って手にとった次第。我ながらミーハーだ(笑)。

著者の幼少時代からはじまり、山に登りはじめるきっかけや、学生時代の登山、死の淵を覗き込んだ2度の事故、そして14サミッターへ至る過程が書かれている訳だが、気負わない姿勢が貫かれていて、読んでいて気持ちいい。

雪崩に巻き込まれたガッシャーブルムIIの事故(同行者2名は死亡)では、背骨を折る大怪我をしたのだが、翌年にはガッシャーブルムIIに不屈の意思で再挑戦し、見事、登頂に成功している。

手術の際に背骨に入れたチタン製のシャフトは、著者はいまも机の上に飾っているそうである。その理由というのが「それを見て自分自身の心を奮い立たせるため」ではなく、単に「格好いい」からというのが、いかにも自然体の著者らしい。

スポーツとしての登山を提唱し、登山の魅力を世間に伝えるべく努力する竹内洋岳というプロ登山家がこれから進む道が楽しみになる。

Tags: 書評

2013-06-22(Sat) [長年日記] この日を編集

_ artonさんに機龍警察をプッシュしたもしくは『機龍警察 暗黒市場』(月村 了衛)について

artonさんが機龍警察1巻だけで終わりそうな感じだったので、2巻目以降をプッシュして続きを買わせることに成功した(ぉ

そういえば、3巻目になる『暗黒市場』の書評書いてなかったなぁと思い出したので、ちょろっと書いておく。まぁ、実際のところ、『暗黒市場』は吉川英治文学新人賞受賞したので、俺が書くまでもないんだけど。

機龍警察 暗黒市場 (ミステリ・ワールド)(月村 了衛)

本書は突如、龍機兵パイロット、ユーリ・オズノフが特捜部との契約を解除されるという驚きの幕開けで始まる。ユーリは龍機兵の技術を土産に武器密売を手掛けるロシアン・マフィアに接触する。一方、沖津はブラックマーケットに出品されると噂される新型機甲兵装が龍機兵であることを疑い、捜査に着手する。ユーリが胸に秘めた思惑とは──。

ストーリーは、モスクワ市警の「最も痩せた犬たち」と言われたエリートチームの一員だったユーリがなぜ市警を離れることになったのかを描いた過去パートと、現在を描いた現在のパートの2つで構成される。

構造的には『自爆条項』とほぼ同じ訳だが、前巻と同様、丹念に描かれた過去パートが非常に読ませる。ロシアを舞台にした警察小説としては、まさに世界に通用するといってしまっても過言ではない。

心に深い傷を負い、遠く日本へと流れて、警官に戻りたくても警官になれない自分自身を戦うユーリを描いた現代パートのデキもぴかいち。恥辱にまみれながらも、再び立ち上がろうとするユーリに胸が熱くなること必至である。

『自爆条項』を日本警察小説の大きな収穫と書いたが、本書もその言葉にふさわしい一作だ。

未読の向きは一巻から読むことを強くオススメしたい。